地震に強い家とは?
こんにちは。スタッフの岡部です。
今回のテーマはこちら。
「地震に強い家ってどんな家?」
今回も長くなりそうなテーマです。
先にお断りさせていただくと、今回のテーマについて明確な正解はありません。
では、どうしてこんなテーマで書くのかというと「地震に強い家」というのが宣伝というか、商品のアピールポイントのように使われるのはちょっと違くない?と思っていたりするからです。
確かに地震に対して強い建物の条件、というのは存在します。
平屋建てであるとか、屋根材がガルバリウム鋼板等の軽い素材であるとか、家の形がシンプルで正方形に近いとか、そういった条件です。
例えば、それらの条件を満たした耐震等級3の家が「地震に強い家」として販売されていたとして。
これからの時代、耐震等級3はマストです!みたいに宣伝していたとして。
では、その条件を満たしていれば絶対に大丈夫ですか?と聞かれたとき、
「絶対に大丈夫です」と言えますか?と思うのです。
いやー、それは土地の条件とかにもよって変わってくるので絶対とは言い切れませんねぇ。
けど大丈夫です!耐震等級は最大の3なんで!
熊本地震でも耐震等級3の家が倒壊した事例はゼロなんですよ!だから地震に強いのは間違いないです!
みたいな答えになりませんか?と。
地震対策をしっかり考えることはもちろん大切なことです。
耐震等級も可能ならば高めるのに越したことはないと思います。
そこに反対する気持ちは全くありません。
ただ、地震に強い家づくりに重点を置いたとき、そこに力を入れる分、費用や間取りにも制限が出る場合があります。
家づくりをする人がみんな年収10億あります!とかなら話は別ですが、ほとんどの場合予算には限りがあり、その中でどこにどの程度お金をかけるかを考えながらの家づくりとなります。
耐震等級を優先するが故に、家自体の大きさを小さくしたり窓を極力減らしたり、気に入った家具を買うのを諦めたりと、様々な面で妥協せざるを得ない部分も出てくるかもしれません。
憧れや希望をもって始まったはずの家づくりが、気付けば「仕方ないか…」があちこちに詰まった家になってしまったら、果たしてそれは幸せでしょうか?
何度も言いますが、家の耐震性を考えることは大切です。
決して軽視している訳ではありません。
ですが、人が亡くなる原因は地震による家の倒壊のみではありません。
例えばそのお金を使って、事故を回避できる車を買うだとか、健康のためにジムに通ってみるだとか、家族と旅行に行ってゆっくりした時間を過ごすだとか、そういったことにお金を使うことも大切なことだと思うのです。
万が一に備えることはもちろん大切です。
けれど、普段の何気ない日々も同じくらい大切です。
さて、ここまでの話では「結局それはあなたの価値観では?」と言われてしまえばそれまでなので、先程の熊本地震での被害について、きちんとデータに基づいた説明もさせていただきます。
熊本地震において一番被害の大きかった益城町で調査された建物319棟のデータは以下の通りです。
・耐震等級1の家が301棟(倒壊7棟、大破12棟、軽微~中破101棟、無被害181棟)
「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント / 国土交通省 住宅局
・耐震等級2の家が2棟(※内訳記載なし)
・耐震等級3の家が16棟(倒壊0棟、大破0棟、軽微~小破2棟、無被害14棟)
このデータの倒壊件数に注目してみると、耐震等級1の家で倒壊してしまった棟数は7件で、確率にすると2.3%です。
対して耐震等級3の家では倒壊はゼロ。
耐震等級3の実績を説明する方は、このデータを根拠にされていることが多いと思います。
ではもし仮に、耐震等級3の家が1棟でも倒壊していた場合はどうなるでしょうか?
1棟÷16棟で、その確率は6.25%です。
1件倒壊件数が増えるだけで、その確率は耐震等級1の家を上回ってしまいます。
そんな仮定の話は意味がないと思わるかもしれません。
しかし、なぜそんな話をしているのかというと、先程の国土交通省のデータには記載されていませんが、熊本地震では耐震等級2の家が1棟全壊しています。
熊本地震が起きるまでは、耐震等級2でも十分に大地震に耐えられるだろうと思われていました。
耐震等級2の家は全体で2棟なので、そのうちの1棟が倒壊したとなるとその確率は50%。
これでは耐震等級1の家よりも耐震等級2の家の方が倒壊しやすい、ということになってしまいます。
もちろんこれは耐震等級2の家が弱いという話ではなく、そもそも耐震等級別に倒壊しやすさを比較するには、耐震等級2と3の分母が少なすぎるのでは、という見方も必要ではないかということです。
また、倒壊してしまった7棟の耐震等級1の家のうち4棟は、施工不良3棟、著しい地盤変化の影響1棟となっています。
施工不良がなければ倒壊していなかったのかというとそれも断言することはできませんが、必ずしも耐震等級1の家が脆弱で耐震等級3の家が強固なのかというと、そうとも限らないということです。
地震による住宅の被害というのは直接人命に関わることでもあります。
命は助かったとしても、住宅が倒壊して今までの生活が一瞬で失われてしまうという絶望感は想像するに余りあります。
それらのリスクは耐震等級を高めることで低減できるのは確かです。
ですが、絶対ではありません。
倒壊はしなくても、その後も変わらず家が住み続けられる状態であるかどうかというのは、また別の話です。
そんな大きなリスクの可能性があることに関して、保証も確約もできないことを無責任に「これなら大丈夫」とは言えないのです。
だからこそ「耐震等級3なら安心!大切な家族を守るため!」というような薦め方には少し抵抗を感じてしまいます。
私自身は、地元秋田県に住んでいた頃に東日本大震災が発生し、最大震度5強の揺れを経験しました。
横にゆっくりと大きく揺れ、いつまでも揺れが収まらず、何が起きているのか、これが地震なのかどうかすらわからないような恐怖に包まれたのを覚えています。
幸い秋田県ではそれほど大きな被害というのは出ませんでしたが、震源に近い宮城県や岩手県、福島県がどうなったかというのは、皆様ご存じの通りかと思います。
震度5強であれならば、震度7の恐怖はいったいどれほどだったか。
地震の怖さというものに関しては、ある程度身をもって知っているつもりです。
耐震等級3の新築の家でも、崩れることもあるかもしれない。
反対に、旧耐震基準時代に建てられた古家でも無事かもしれない。
耐震等級3で建てた家でも、柱にシロアリ被害や腐朽があったらその等級は当てになりません。
建物がどんなに強くても、地盤が弱ければ家も倒壊してしまうかもしれません。
いつ、どこで、どんな揺れがどの程度でくるのか。
それによって自分の住んでいる場所はどんな被害が出るのか。
それは地震が起きてみるまではわからない。
正解がない、100%は存在しない。
ということだけがハッキリと言えることだと思っています。
そのことを念頭に置いた上で改めて「地震に強い家」というのを考えていくべきではないかなと思っています。
ではまた次回!