光と影を考える
こんにちは。スタッフの岡部です。
朝晩は冷え込む日が増えてきました。
日が暮れるのも早くなり、家の電気を点けている時間も長くなってきたのではないでしょうか。
ということで、今回のテーマはこちら。
「部屋の印象は照明で変わる」
日本の家は明るすぎる、と言われています。
日本人は白い光を好む、とも言われています。
家の照明を思い浮かべたとき、部屋の中央に丸いシーリングライトがドン!とある光景をイメージされる方も多いのではないでしょうか?
シーリングライトは、1台で部屋全体を効率的に明るく照らすことに適した照明です。
勉強や読書はもちろん、細かな作業の際も明るく快適。
そして比較的安価。
そういった理由から、日本の住宅では広く採用されています。
シーリングライトから放たれる白く強い光が壁や天井の白いビニールクロスに反射し、より明るく拡散する。
これが欧米の方からすると非常に眩しいようで、日本の家は明るすぎると言われる所以です。
一面真っ白に雪が積もった冬の日、太陽光が反射して目を開けていられないくらいの時がありますが、そんな感じに見えているのかなと思います。
私たち日本人の瞳は、黒や茶色など比較的濃い色をしています。
対して欧米人の瞳は、青や緑など明るめの色。
これは瞳のメラニン色素の違いによるもので、日本人のような濃い色の瞳は光に強く、欧米人のような明るい色の瞳は光に弱いそうです。
この瞳の特徴に加えて、日本人が白く強い光を好むのには、これまでの照明の歴史も関係しています。
明治時代、日本で白熱電球が国産化され普及していきますが、消費電力が大きく寿命も短いなどのデメリットがありました。
そして戦後、高度経済成長期に入ると、白熱電球に変わる新たな明かりとして蛍光灯が登場します。
白熱電球よりもはるかに明るく、消費電力も少ない。
蛍光灯は瞬く間に日本中に普及していきました。
その蛍光灯の光の色は青白いものが主流であったため、私たち日本人にとって白く強い光というのは馴染み深いものになっていきました。
※ 初期に普及した蛍光灯の光はより青白く、この蛍光灯の下での顔色は非常に悪く見えて不評だったようです。
逆に欧米では、日本に比べて暗くオレンジ色の光が好まれ、日本のように天井にシーリングライトを設置して部屋全体を明るくする、というのはあまり一般的ではありません。
その背景には、先述した瞳の特徴に加え、照明器具も含めたインテリアそのものへの関心の違いもあります。
欧米、特に北欧地域の特徴として、冬が長く日照時間がとても短いということが挙げられます。
朝起きて暗い、出勤のときも暗い、会社に着いて窓から見える景色も暗い、お昼頃ようやく明るくなってくる!
仕事が一息ついて15時のおやつタイムにはもう夕暮れ、夕方の退勤時間には真っ暗。
そんな生活だそうです。
人間は日光を浴びないと心身に不調をきたすと言われています。
北欧ではその不調を和らげるため、薬局ではビタミン剤なども充実しているそうです。
そして太陽が出ると、多くの人が日光浴をするそうです。
それだけ太陽、光というものに飢えているのです。
そんな環境の中で、鬱屈した気分をどう晴らすかということを考えたとき、家を快適にするという発想が生まれました。
北欧家具のIKEAなどはそのデザイン性の高さなどから日本でも人気がありますが、明るく派手な柄のタイル、色や素材にこだわった家具、そしてくつろぎの空間作りに欠かせない照明。
インテリアも含めた家の快適性に対して、高い関心をもったライフスタイルが定着しています。
私たちの住む日本では、日照が十分に得られます。
それゆえ、普段あまり明るさを意識することがない。
白く強い光に耐えうる瞳をもっているし、光?太陽光?その辺にいつでもあるわい!といった環境。
家の照明なんてただの明かり!暗くなったら点けるだけ!
明るけりゃいい!ものがハッキリ見えたらいい!といったマインドです。
ですが、だからといって日本人が「光」に関しての感性が鈍いかというと、そんなことはありません。
「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」という、昭和8年に谷崎潤一郎という文豪が書いた随筆があります。
日本の美意識、暗がりや陰影を美しいと感じる日本の風習や感性について書かれており、海外でも翻訳されています。
日本の古民家や旧家などの歴史的建造物、社寺仏閣など、その室内は薄暗い印象がありませんか?
そしてそこには何とも言えない、厳かな空気が存在します。
ぼんやりと薄暗い中にあるからこそ、その雰囲気や静けさがより引き立ち、それを美しいと感じる感性が日本人にはあるよ、と言うようなことが書かれています。
花鳥風月とか侘び寂びとか、うまく言葉で表すのは難しいけれど、なんとなく分かる。
そういった感性を持っている私たち日本人にとって、「照明を考える」というのはきっと相性の良いことであるはずです。
部屋の目的や用途に合わせて明るさや光の色などを計画することを、照明計画と呼びます。
シーリングライトのように1台で部屋全体を明るくする方法ではなく、部屋の各所に照明を配置することを多灯分散や多灯照明などと呼びますが、これこそが照明で部屋の雰囲気を大きく変える方法です。
しかし、いきなり天井のシーリングライトを外すなど大胆なことをする必要はなく、気に入った形のテーブルライトを買ってきてゆったり過ごすソファの近くに置いてみたりだとか、まずはそういった所から始めてみてはいかがでしょうか?
例えば、キッチンなど日常的に作業をする部屋などは、あまり暗くしてしまうと実生活に支障がでてしまいますし、掃除の際は部屋全体を明るく照らすことができる照明の方がストレスなく作業ができます。
反対に、リビングや寝室などゆったりくつろぐことを目的をした部屋では、少し暗いほうがより落ち着く空間になるかもしれません。
どちらが良い悪いといった話ではなく、インテリアを考えるなかで、いつもと少し部屋の雰囲気を変えてみたいなと思ったとき、テーブルやソファなどの家具だけではなく、照明を変えてみるのも面白いよといった趣旨のお話でした。
これから冬に向かい、家の中で過ごす時間も増えてくるかと思います。
どこを明るく照らすかだけでなく、どこを暗くするかを意識してみると、理想の空間づくりに近づくかもしれません。

